コラム
ファクタリングと貸付の違いとは?借金にならない理由を解説
ファクタリングは、資金調達といっても金融機関が提供する「貸付(融資)」ではないため、いくら利用しても企業の負債(借金)は増えません。これは決算書の賃借対照表をオフバランス化させることができるというメリットにつながります。 では、なぜファクタリングは貸付にならないのでしょうか?今回は、ファクタリングの仕組みを紐解き、ファクタリングが借金にならない理由を解説します。
目次
ファクタリングとは
ファクタリングは、BtoB取引(企業対企業の商取引)において発生する売掛金=売掛債権を対象とした取引です。ファクタリング会社に売掛金を売却・債権譲渡して、本来の支払期日より早く資金を調達したり、回収可能性が危ぶまれる売掛金をファクタリング会社に保証してもらうことで、未回収リスクを避けながら取引先を拡大したりすることができるといった効果があります。取引内容によっていくつかの種類に分けられており、資金調達方法として知られるのは「買取り型ファクタリング」と呼ばれています。
売掛債権って何?
日本の企業間取引では、掛け取引(信用取引)が一般的に普及しています。 本来、商品を購入する時は商品と引き換えに代金を現金などで支払う必要がありますが、掛け取引では一定期間中に購入した商品の代金を後日まとめて支払います。商品を購入する企業にとっては、後払いの決済になるためキャッシュフローを調整できるというメリットがあります。商品を販売する企業にとっては、取引先を確保しやすいという大きなメリットがあるのですが、その反面、売上が売掛金となりなかなか現金化されないため、場合によっては資金繰りが困難になる可能性があります。
経済産業省の中小企業白書などによれば、日本の中小企業は無借金企業の数がかなり少なく、多くの中小企業が金融機関からの融資に依存している状況にあります。掛け取引が一般的に主流となっていることも中小企業における資金難の一要因と考えることができるでしょう。いっぽう、中小企業の資金調達方法は金融機関からの融資に依存していますが、これに対する金融機関の対応は中小企業にとって十分なものとは言えないようです。
そこで経済産業省でも売掛債権を活用した資金調達方法を進める動きがあります。現在、実際に多くの企業で活用されている“売掛債権を活用した資金調達方法”は、売掛債権担保融資(ABL)と買取り型ファクタリングになります。
売掛債権担保融資はその名称のとおり売掛債権を担保として金融機関からお金を借りる方法ですので、取引上は貸付にあたります。
買取り型ファクタリングは、現在唯一の借金を増やさない資金調達方法なのです。
買取り型ファクタリングの仕組み
2社間ファクタリングの場合は売掛先に通達せず、売買を行う。
3社間ファクタリングの場合、売掛先から承諾を得て、債権譲渡を行う。
「売掛金-ファクタリング手数料=現金」となるが、掛け目が使われることも多い。
このように、貸付であれば生じるはずの「返済」がファクタリングでは発生していません。
ファクタリング会社は利用者から買い取った売掛債権の債権者となりますので、利用者から返済を受ける代わりに後日取引先から支払われる売掛金を受け取る権利を持ちます。また、貸付であれば利息が生じますが、ファクタリングには利息はありません。ファクタリング会社の利益となるのは、売掛金から差し引く手数料です。
買取り型ファクタリングには2通りの取引内容があります。
2社間ファクタリング(2社間取引)
手数料率の目安:10~20%/入金スピード:最短で申し込み即日~数日
利用者(売掛金を保有している企業)がファクタリング会社に売掛金の売却を申し込み、ファクタリング会社が買い取る方法です。原則として売掛先の承諾が不要な取引です。
取引の内容は売掛債権の売買で、当該売掛債権については債権譲渡登記を行うことで対抗要件とすることができます。
3社間ファクタリング(3社間取引)
手数料率の目安:1~10%/入金スピード:申し込み後約1~2週間
利用者(売掛金を保有している企業)がファクタリング会社に売掛金の債権譲渡を申し込み、ファクタリング会社が債権を譲り受ける(買い取る)方法です。債権譲渡のためには契約時に売掛先から承諾を得る必要があり、売掛先とのやり取りが生じるため利用者が現金を得るまでに多少時間がかかります。取引の内容としては債権譲渡契約であり、別途債権譲渡登記を行う必要はありません。
ファクタリングが貸付ではない理由
これまでご紹介したように、ファクタリングは「売掛債権」を対象とした取引で、いずれもその取引内容が貸付にあたらないためファクタリング会社は貸金業としての登録を行う必要がないとされています。
では、なぜファクタリングは貸付にあたらないのでしょうか。
返してもらうことを想定していないから
貸付とは、取引の内容によって条件を定め、金銭や物品を貸すことです。貸した金銭や物品は条件に基づいて返却(返済)する必要があります。
これに対し、ファクタリングは売掛債権を売却・債権譲渡し、ファクタリングは買い取った売掛債権の代金を支払うという構図になります。そして、ファクタリングの契約には償還請求権(※)がありませんので、ファクタリング利用者は万が一売掛債権が取引先から支払われなかったとしてもファクタリング会社に対して自腹を切ってお金を返す必要がありません。
ファクタリングは返却(返済)を想定していないため、貸付にあたらないと判断されています。
償還請求権
債務の責任範囲を限定することなく、金銭債権を請求することができる権利を「償還請求権」といいます。売掛債権担保融資(ABL)や手形割引は償還請求権がある取引のため、万が一売掛金が支払われなかった時は、利用者が自分の資産の中からお金を返す必要があります。
売掛債権を担保目的で扱っていないことが手数料を見ても明らかだから
売掛債権担保融資(ABL)では売掛債権を担保として設定し、金融機関が担保としての価値を査定して融資可能額を算出します。一般に、売掛金担保は評価額の80%以下の掛け目がかかるとされるため、実際に融資を受けられる金額は売掛債権の額面から50~70%ほどになることが多いでしょう。一方、買取り型ファクタリングでファクタリング会社に差引かれる手数料は高くとも10~20%です。掛け目が使われることも多いのですが、後日売掛金を回収した際に清算される仕組みです。売掛債権の額面から10~20%ほどの手数料では、売掛金を担保目的で扱っていないことは明らかです。
過去の裁判例
次は、金融庁のWebページから引用したファクタリングに関する過去の裁判例です。
ファクタリングが貸金業に該当しないと判断された裁判例としては、
〇ファクタリング業者は償還請求権を有しておらず、売主としても債権の買戻しを予定していないことなどから、実質的にも債務者の不払いリスクがファクタリング業者に移転していると評価できること、対抗要件具備は猶予されているものの、ファクタリング業者の判断において具備が可能であったこと、債権額面と売買代金の差額(手数料)についても担保目的であることを推認させるような大幅なものということもできないことなどを総合考慮し、貸金業法は適用されないと判断された事案
(東京地裁令和2年9月18日判決)
〇契約上、債務者の不払い等により回収することができなかった額につき売主が責任を負うものとはされておらず、実際に、債務者の無資力の危険についての負担がファクタリング業者に移転したものと認められること、また、債権額面と売買代金との差額(手数料)についても、実質的に担保目的のものであることを推認させるような多額のものではないことなどを総合考慮し、債権の確定的な売買であると判断された事案(東京高裁令和4年6月15日判決)
などがあります。
一方で、ファクタリングと称しながらも実際の取引内容が金銭の返済を想定していることなどから、貸付にあたると判断された裁判例も存在します。ファクタリングと称しながら無登録で貸付にあたる取引を行うのは違法取引にあたります。
ファクタリングで貸付にあたる行為をすることは違法です
ファクタリングは貸付にあたる行為をしないため、ファクタリング会社は貸金業としての登録をせずファクタリングサービスを提供することができます。貸金業の登録がなくても、利用者は安心してファクタリング取引を行っていただいて差し支えありません。
なお、貸金業として登録をしていないファクタリングでは、次のような取引を行うことはできません。万が一、次のような取引を提案された場合は、ファクタリングを騙る違法取引業者の可能性がありますので、トラブルを回避するためにもご利用を避けていただくのがよいでしょう。